ティファには好きな曲があった。
楽譜は、その曲のところで開きぐせがついている。そして、暗譜で弾ける。
「作曲者不詳」、しかも、題名は『メインテーマ』とあるが、
何のメインテーマなのかも不明。
短くて易しい曲なのだが、好きだった。
父親が「もっと難しい曲に挑戦しなさい」とか「たまには別の有名な曲も聴きたいな」
とか言って、その通りにもしたけど。
やっぱりこの曲が好きで、よく弾いた。
青空の下、緑に覆われた大地を、どこまでもどこまでも歩いていけるような感じになった。
新聞やテレビでしか見たことのない飛空艇に乗って、遮るもののない大空をかけめぐるような気になった。
この曲は、自分を、ここではないどこかへいざなってくれる。そう思いさえした。
前に「ティファは同じ曲ばかりよく弾くが、あの曲がそんなに好きなのか?
どういうとこが好きなんだ?」と父にきかれたことがあった。
ティファにとっては「好きだから好き」としか答えようがなかったが、
父にとってはそれでは答えではないようで、
「曲の感じが、旅に出てるような気がするから。」と言ったら、
「そうか…」と納得いかないような響きを含んだ答えが返ってきた。
そして必ず一言ついてくるのだ。
「あまり間違えるなよ。周りは聞いてるからな。『あれ、あそこでつっかえた』と思ってるぞ。」
こんなことがあるから、外へ出たいと思ってしまうんだろうか。
そして、自分を慰め、励ますように、あの曲を弾く。『メインテーマ』を。



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