食堂の隣の休憩室には、誰も弾かなくなって久しい、古いピアノがある。
埃をかぶってうっすらと白い。忘れ去られたように、ぽつんとそこに置いてある。
ピアノ椅子はとうにどこかへいってしまって、間に合わせの休憩室の椅子も
埃をかぶっている。
クラウドは「それ」がずっと気になっている。
ある時、意を決してふたを開けてみた。
中の鍵盤も、白鍵が黄色くなっていた。
人差し指を乗せてみる。埃でざらざらしている気がする。
ニブルヘイムにいた頃、隣から聞こえてきたピアノの音とは違う気がした。
何となくこっちの方が古っぽいと思った。
「あの曲」が弾きたい。そう思って、誰も弾いてなかったピアノのふたを開けた。
まずは…「ド」ってどこだっけ?
学校で習ったオルガンのことを思い出す。
この程度のことを同期に尋ねるのは何となく嫌だった。
それより、ピアノに興味があるなんて女っぽい、と思われることの方がもっと嫌だった。
空き時間さえあれば、ピアノをさわった。
一つ一つ音を確認していくごとに、かすかに覚えていただけの曲が形になっていった。
たった8小節の、曲とも言えないフレーズだけだが、
自分がかつて聴いた通りに弾けるまでには、試行錯誤を重ねた。
いつしか、人差し指だけだが、音を間違えずに弾けるようになった。
たった8小節なのだが、クラウドにとっては曲も同然だった。
曲名も知らない。楽譜も無い。あっても読めない。前に、隣の子がよく弾いてた。
ただ、それだけ。
あの子が弾いていたのに比べれば、自分のは何とたどたどしいのだろう。
でも、それでも嬉しかった。
あの子は今でもこの曲を弾いているのだろうか。
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