全てが済んで、皆それぞれの場所に帰っていった。
 最後までここに残ったのは、あの夜と同じ私達二人。
 もう何も起こらない。そう思ったのに違いないのだから、皆帰ったのだし、私もそう思ってた。
 ただ一人、彼を除いては…


 その夜は月が明るく、浅い眠りに就けたのは、次の日になった頃だった。
 何かの気配がして、ふと目を覚ますと、隣のベッドにクラウドの姿が無い。
「ん、あれ、いない?」
 ドアの開け閉めの音と、外階段を降りていく足音がする。
「えっ?!」
 その頃の私は、クラウドが傍にいないとひどく不安だった。
「クラウド、一体何処へ?」
 コスタ・デル・ソルには深夜営業の店が無い。こんな時間に何処へ行くのかわからない。
 何時かのように、またおかしくなっちゃったらどうしよう…と、慌てて後を追いかける。


 外は波の音しかしない。
「夜だと冷えるかも…」
 昼間は半袖でも暑いくらいだったのに。
 上着を持ってこなかったのは失敗だったかもしれない。
 波の音が誘い、また、何となくクラウドがそちらの方にいるような気がして、自然と足が海岸へ向いてしまう。


 誰もいない夜の海岸。月だけがその姿を水面に映している。
「わ、夜の海。月があんなに…」
 昼との違いに驚きの声を上げる。
 緩くカーブを描いた海岸線がよく見える。月明かりのせいだ。
 ぐるっと見渡すと…
 ここから離れた波打ち際に誰か立っている。
「クラウド!?」
 その姿は今にも何処かへ行ってしまいそうな、そのまま海へ入っていって二度と戻ってこないような、そんな風に見えた。
「やだ!!」
 彼の元へ走り寄る。
「クラウドー!!」
「ティファ!!」
 見られてはいけない物を見られたような顔をして、クラウドがふり向く。
「どうして出てったりしたの?こんな所で何をしようとしてたの?」
 私の問いに、クラウドは顔をそむけたまま。
「これ以上不安にさせないで…」
「………」
 しばらくの沈黙の後、クラウドが重い口を開いた。
「ティファ、これ、何だかわかる?」
 そう言って手を差し出した。何か握られてる。
「何、これ?」
 石のようにも、コンクリートの欠片のようにも見える。
「セフィロスの欠片。」
 思いもよらないクラウドの答えに、耳を疑う。
「セフィロスって…じゃ、これ、ジェノバ…?」
「ああ…でも、もう、灰になってる。なんか笑えるよな、ついこないだまで散々俺達を苦しめてきた奴かと思うとさ。」
 クラウドがその手に力を込めると、灰がさらさらとこぼれ落ちる。
 そのまま膝まで水につかり、こぼれる灰を海へ流す。
「何してるの!それじゃまるでセフィロスを弔ってるみたいじゃない!!」
 ジェノバも、セフィロスも、お葬式をあげるような奴なんかじゃない!私にとってセフィロスは、憎むべき敵でしかないのだから。
「わかってるよ!こいつが何をしたか。」
 振り向きもしないで、クラウドが続ける。
「ニブルヘイムが焼かれ、ティファの父さんが殺され、俺の目の前でエアリスが死んでいった。みんな、みんなこいつのせいなんだ。」
 握る手に一層の力を込める。灰は固まりのままこぼれる。
「あの時、最後にセフィロスに呼ばれた時、俺、思ったんだ。セフィロス自身、誰かにリセットしてもらいたかったんじゃないかって。そう思ったから、俺の攻撃を無防備のまま受けた。ほっとしたように微笑んでた。もっとも、あいつはそんなこと露ほども思ってはいないだろうけど。」
 自嘲気味に言う。
 私の為にクラウドは強くなろうとした。セフィロスのようになりたいと思った。
 それが痛いほどわかるから、私にしかわからないだろうから、重い。
 わかってあげられるのは私しかいないのに。クラウドの気持ちを受け止められるのは私しかいないのに。
「あんなに酷いことをされたのに、でもそれでも俺はどこかで信じてた。俺の憧れてたセフィロスだと。ジェノバの支配から脱しても、ずっと追いかけていたんだ。なのに俺は…」
 クラウドががくりと膝をつく。泣いてるの?
 クラウドのやりきれない気持ちが伝わってくるのに、私は、セフィロスへの思いに共感できない。重すぎる。
 かける言葉が見つからない。どうすればいいの?


 そっと背中に手をやる。
「ありがとう、ティファ。」
 落ち着いた声で応える。
「勝手だよな、認めたくない過去をどんどん美化していくなんて。俺がセフィロスを思い出せば思い出すほど、ティファは傷ついていくんだもんな。俺は夢や憧れをこの手で斬り捨てた。だからもうこれきりにするんだ。」
 クラウドは、まだ灰にならずに残っていた欠片を、遥か沖めがけて、浮かぶ月めがけ、力の限り投げた。
 せめて、せめて今だけは、クラウドの思う通りにさせてあげたい。故郷を、帰る場所を失った悲しみをわかりあえるのは彼だけなのだから。


 明日「おはよう」をどういう顔して言ったらいいのか、そんなことを考えるのは、とりあえずやめよう。



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